天下御免の向こう傷

旗本退屈男 東映 市川右太衛門1958年
市川右太衛門旗本退屈男は知らずに、西川のりおのギャグなら知っていた世代です。西川のりおのギャグでさえ、年輩の人でなくては分からない時代になってしまいました。佐々木味津三の原作は、青空文庫で読んではいたのです。その時の印象はちゃんばらというより、ああ言えばこう言うというような、ディベート戦といったものでした。刀を振り回しての立ち回りは、映像で見せればイッパツで視聴者に伝わりますが、文章となると、屁理屈のコネ合いでしか、戦いを表現出来なかったのかもしれません。さて映画の方ですが、映像の奥行きの深さというのか、スケールのデカさハッタリ感が半端なく、それだけで圧倒されてしまうのです。ウツケ者の殿様が放蕩三昧に溺れるシーンでは、まるで大広間にSKDのアトミック・ガールズを招いてラインダンスを寝そべりながら鑑賞するというような豪奢さです。この頃は大戦の敗戦から立ち直り、高度経済成長の日本がイケイケの状態であった時代だったのでしょう。当時の娯楽作品にかけるスケール感は、ショボい今の現状では絶望的に再現不可であり、こういう時代もあったのだなあという感慨に耽るしかないのです。