Glad To Be Unhappy

言葉を失う、とはこういうことを言うのでしょう。1983年、雪組さんの「ハッピーエンド物語」です。麻実れいさんの魅力は桁外れであり、それは昭和の粗い映像にも拘らずハッキリと伝わってくるので、スゴイとしか言い様がありません。激しくキレッキレのダンスパートは平みちさんと尚すみれさんに任せ、麻実れいさんは優雅に舞って貫禄を見せつけます。トレンチコートを渋く着こなすジェンヌさんは、壮一帆さんが一番と思っていましたが、それも麻実れいさんに上書きされてしまったのでした。麻実れいさんとコンビを組まれた遥くららさんの美しさにも触れねばなりません。近頃私は舞空瞳さんや山吹ひばりさんを推しまくって、喧しく騒いでいるのですが、遥くららさんを前にしては黙り込むしかありません。「ハッピーエンド物語」は、のっけからオッフェンバックの天国と地獄からスタートしたので、賑々しくカンカンが始まるのかと思ったのですが……。老齢の男女が静かに出口へと消えてゆく。そして、狂言回し役の尚すみれさんが仰います。「どうしてこんなアンハッピーなことになるんでしょう」。「ハッピーエンド物語」は老人が見た束の間の夢物語だったのかもしれません。