小津安二郎の「東京物語」を視聴したのですが、劇団新派の舞台を先に見ておりまして、小津映画が後になりました。ストーリーを知った上で視聴しますと、「ココで伏線張りましたな」というのが分かったりするわけです。冒頭、貨物列車の疾走する場面が、唐突に映し出されるわけです。列車が通ると、線路際に建っている民家の洗濯物が激しく揺れるわけです。長閑な尾道の風景を映し出せば良いと思うのですが、何やら先行きにイヤ~な展開を予感させる不穏な風が頬を撫でていくのです。老夫婦が東京に到着したことを暗示させる場面は、工場の煙突から黒々とした煙が吐き出される映像なのです。煙突から立ち上る煙のようなドス黒い存在が、視聴者の不安感を掻き立てるのであります。何でもない会話の中にも、後になって振り返ってみますとドキリとするようなセリフがあったりするのです。日常生活の背後から音も無く迫りくる恐怖、小津安二郎の「東京物語」には、冒頭からモダンホラーの香りが漂ってくるのです。そして何より、小津安二郎の意思を汲んだ杉村春子の軽い演技がコワイ。小津安二郎の「東京物語」を、私はモダンホラー映画と感じてしまったのでした。